念願だった大窪寺へ無事到着した。旅人は、今、大窪寺の参道を本堂へ向って歩いている。参道には売店が並び、「安くしておきます。結願記念にどうですか」とおばさんが通り過ぎる旅人に声を掛けて来る。その声は、旅人には心地よい祝福に聞こえた。
境内はたくさんのお遍路さんで混んでいた。本堂へ通じる石段もお遍路さんで詰まり、順番を待っている。旅人もその列に並んだ。ようやく前が開き、今まで何十回と繰り返して来たように、納札箱に納め札を入れ、賽銭を投げ、それから数珠を指に掛け、般若心経を唱えた。大師堂でも同じようにお参りをした。
最後に納経所へ行った。納経所のお坊さんは、大窪寺の真っ白なページを開くと、筆でサラサラとお寺の名前を書き、朱印を三つ押した。こうしてお遍路旅は終了した。
お遍路を終わった旅人にはたくさんの思い出ができた。旅先で出会った人たち、美しい風景、お寺の建物、お経が響く不思議な世界・・・。俄か遍路の域を脱することはできなかったが、旅人の手提げ袋の中には、お寺のスケッチがぎっしり詰まっていた。
しかし、これで旅人のお遍路が終わったわけではない。これから、家に帰り、スケッチに色を付け、旅日記をまとめるという膨大な取組みが待っている。それをやり遂げてこそ旅人のお遍路旅は結願するのだ。
決意も新に、真の結願を目指して「同行二人」、旅人は細入に向け、車を発車させた。(完)

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