
名古屋で「第42回日展-東海展」が開かれている。今年も伊藤寿雄さんの「母の像」が日展に入選していた。「見に行かなくては」と思っていたのだが、何せ、今年の雪は中途半端ではなかった。毎日、除雪作業に追われて、ずるずると日が過ぎ、とうとう、2月13日の最終日を迎えてしまった。
今日を逃したら、伊藤さんの絵には会えない。明け方から雪が降り出し、朝には15センチほどの積雪になっていたが、雪が降る中を、車で出発した。猪谷から国道360号線を走った。飛騨古川の辺りで雪は止み、清見インターから東海北陸道に入った。東海北陸道は、チェーン規制もなく、順調に進み、午前11時には名古屋に到着した。
県美術館のある栄周辺の駐車場は、30分200円というので、貧乏性が身についた旅人は、新瑞橋近くに最近出来たイオンに車を置いた。ここは、3時間は無料だった。新瑞橋から地下鉄に乗り栄に向かった。名古屋の地下鉄は、旅人がいた10年前と比べると新しい路線が次々とでき、大きく様変わりしていた。この日、乗車券売り場に長蛇の列ができていたが、ICカードの乗車券が発売され、その手続きで並んでいるということだった。
栄に到着した。以前は、一旦、地上に出ないと美術館には行けなかったが、最近、新しい地下道ができたようだ。ずっと、地下道を歩き、県美術館に入った。日展会場は8階だった。入口は、たくさんの人で混み合っている。今日は最終日だから、旅人と同じように、駆けつけた人が多いのだろう。
千円の入場券を買って、会場へ入った。壁一面に、巨大な絵がぎっしり並んでいる。一枚一枚見ていけば勉強になるが、伊藤さんの絵に出会うことだけが目的なので、急ぎ足で洋画の部屋へ向かう。伊藤さんの絵は、去年と同じ部屋に展示されていた。
今年のお母さんは、洋服を着て、車椅子に座っていた。彼が、自分のお母さんを描き続けて、二十年近くになる。若かったお母さんも、90歳近くになられたのだろう。足が不自由になり、車椅子の生活になられたようだ。しかし、お母さんの気丈な心意気が伝わってくる絵だった。
着ているオーバーの柔らかい布のタッチ、青いジーンズの繊維、白い髪の毛の一本一本、顔の皺やシミまで実に繊細に描き込まれていた。この絵を完成させるのに、伊藤さんは膨大な時間を掛けていることが分かった。
旅人は、10分近く絵を眺めていたが、今年も、たくさんの人が、伊藤さんの絵の前で立ち止まった。この絵に会いにやって来る人がたくさんいるのだ。来年も、元気なお母さんに会えることを楽しみに、会場を後にした。