第7日目(5月22日) 広尾~釧路 昨夜は、広尾町の「ホテル東陽館」に宿泊しました。部屋もゆったりとしていて、美味しい食事が出て来ました。1泊2食で6500円と格安のホテルでした。しかし、この日宿泊したのは、僅かに5人、このすぐ近くの庶野にある民宿は満員だったのですが、ここはビジネスホテルではないので、ビジネスマンは敬遠するのでしょうか。民宿に比べればやはり割高なのでしょう。こんな少人数の客では、経営は火の車なのではないかと思いました。
このホテルのフロントで私を出迎えてくれた若者は、ホテルの料理作りを担当していました。物静かな若者でしたが、食堂で料理を運んで来た時に、丁寧に挨拶をして、料理が盛ってある皿をテーブルに載せていました。精一杯努力して料理を作っていますという感じが伝わってきました。朝の食事は和食メニューでしたが、やはり若者から丁寧な挨拶がありました。そのうち彼は一流のシェフになるのではないでしょうか。一生懸命働いている姿を見るのはいいものです。

ホテルの窓から見える日高山脈と広尾の町並みをスケッチしました。今日は上天気のようです。日高山脈の高い山並みには、まだ雪が残り、朝日に白く光っていました。遠くからはカッコーの鳴き声も聞こえてきます。
朝食の後、広尾港へスケッチに出掛けました。港は波もなく穏やかで漁船が何隻も停泊しています。しかし、人影は見えません。港の横の防波堤に行きました。堤防へ上ると外洋が見えました。何と大きな白波が激しく押し寄せています。これでは出漁できないのは当然だと思いました。
漁船をスケッチしました。今回の旅では初めて漁船を描くことになります。漁船のスケッチもこれからたくさん描くことになるのでしょう。

堤防へ押し寄せる荒波をスケッチしました。堤防からは、昨日走ってきた「黄金道路」のトンネルが見えています。険しい断崖の下に道が付いているのがよく分かりました。
写真に撮ろうとデジカメのシャツターを押しました。そこで、思ってもいなかったハプニングが起きました。「フロッピーが一杯になりました」という表示が出たのです。これから先、デジカメが使えないのです。「どこかでパソコンショップを見つけてフロッピーを購入しなければいけない」と焦りました。
慌ててホテルへ戻り、フロントで聞いてみましたが、「電気屋は大通りにありますが、帯広まで行かないとパソコン屋はありません」とフロントの男性からは冷たい返事が返って来ました。
とにかく電気屋へ行ってみることにしました。「デジカメのフロッピーは生憎ですが置いていません」ここでも冷たい返事です。今日は諦めて、インスタントカメラにすることにして、写真屋へ行きました。何とその写真屋にデジカメのフロッピーがあったのです。「燈台下暗し」と言いますか、時代は変わり、写真屋はデジカメ写真を現像するようになり、デジカメを置くようになつたのです。もちろんフロッピーもです。無事フロッピーを手に入れることができ、「めでたし、めでたし」でした。
広尾町から釧路へ向かいました。天気は快晴です。心地よい風を受けながら、時速80kmで車を走らせました。忠類村のナウマンゾウ発掘地を見学し、大樹町に入りました。
10時過ぎ、道路脇に車を停め、休憩にしました。ふと見ると、車の横にウドの新芽があるのです。思わず手を伸ばし、ウドを採りました。ひょっとしたらまだ、ウドがあるのではと思い、その辺りを歩き回りました。3本もウドを見つけてしまいました。
ちょうどそこへ、軽トラックがやって来ました。私の車の横に軽トラックは停車し、2人のお婆さんが下りてきました。「山菜取りですか」声を掛けると「ええ。少し向こうで探していたのですが、さっぱりでした」少し肥ったお婆さんから返事が返って来ました。「この辺りにはあるようですよ」私は手に持っていたウドを見せました。
「じゃあ、ここで少し探しますか」少し肥ったお婆さんは、もう1人の小柄なお婆さんに言いました。お婆さんたちは、身なりを整え、大きなビニル袋を持ち、山菜取りに出発します。北海道での本格的な山菜取りのチャンスです。私も仲間に入れてもらうことにしました。「どうぞ、2人よりも3人の方が心強いですから」小柄なお婆さんが言いました。この辺りは熊の出没地帯なのです。私たちは道路から外れて、山の中へ入って行きました。
「ありました!」まず、見つけたのは、ウドです。ウドの枯れ枝があちらこちらに横たわっていました。その根元から新芽が芽吹いていました。次に見つけたのは、ゼンマイでした。本州で見るゼンマイと少し色が違っていましたが、白い綿帽子を被ったゼンマイでした。斜面に沿って生えていました。「これは、行者ニンニクという山菜ですよ」と小柄なお婆さんが教えてくれました。名前は聞いたことがありましたが、見たのは初めてでした。手に取ると、ニンニクの香りが漂ってきました。瞬く間に、持って来たビニル袋は、ウドやゼンマイで一杯になってしまいました。車の所まで戻ることにしました。小太りのお婆さんは、大きなビニル袋を担いでいました。1番たくさん山菜を取っていました。

もう一度出掛けることにしました。今度はクマザサの間を歩いて行きました。親指ほどの太さの立派なワラビがたくさん生えていました。一抱えもワラビを収穫し、車に戻りました。北海道は山菜の宝庫だということを実感しました。私は、収穫した山菜のうち、ウドとワラビを袋に一杯もらいました。2年前に行った釧路の飲み屋へのお土産にすることにしました。
山菜取りで困ったことが1つあります。それは、真っ赤な色をしたヤマダニが一杯、体に付いたことです。釧路へ向かう間中、体が痒くなって何度も車を停めて、シャツを点検する破目に陥りました。「山菜取りは、よいことばかりではない」ということも学びました。もちろん、その夜行った釧路の飲み屋さんでは大歓迎されましたが・・・ダニのことを思い出すと今でも痒くなります。山菜取りにはくれぐれもご注意を!
釧路市に入りました。「→釧路湿原展望台」という表示が見えます。時刻はまだ3時。釧路湿原を見学に行くことにしました。「ひょっとしたらタンチョウヅルに会えるかも知れない」そんな期待感も抱きながら車を走らせました。
しばらく走ると釧路湿原展望所に到着しました。駐車場には観光バスも2台ほど停まっています。立派な展望台です。入口で入場料を払い、中へ入りました。剥製のタンチョウヅルや釧路湿原に関する資料などが展示されています。お土産コーナーもありました。
屋上へ上ると、広大な釧路湿原が眼下に広がっていました。北海道でしか見られない風景でした。「タンチョウヅルはどこへ行ったら見られますか」受付の女性に聞きました。「今は子育て時期ですから、湿原の中に行ってしまいました。冬ならこの辺りでも見られるのですが、無理ですね。タンチョウヅル自然公園で飼育していますから、そこへ行けば見られますが…」受付の女性は丁寧に教えてくれました。タンチョウヅルに会うことは諦めることにしました。

1時間ほどで周れる散策コースがあるというので、スケッチブックを持って出掛けました。シラカバ林の中にクマザサが生い茂り、春の草花が一斉に芽吹き、いい気分です。「クマに注意」という立て札が立っていましたが、観光客も歩いていますので、その心配はないようです。小高い丘を上り切った所に展望台がありました。先ほどの展望台から見た景色よりもはっきりと広大な釧路湿原を見ることができました。釧路湿原は、赤茶けたオレンジ色と薄い紫色の巨大な絨毯のようでした。オレンジ色は枯れた草の茎の色でした。紫色は、ハンノキの芽吹きの色のようでした。遥か彼方にある山まで、延々と平らな平原が続いています。スケッチしましたが、広大な釧路湿原を表現することは大変難しかったです。「百聞は一見に如かず」実際に見ないと、このスケールは理解できないと思いました。この釧路湿原は国立公園として大切に保護されていました。