雨が止んだ。通り雨だったようだ。無事、立江寺に到着し、有料駐車場に車を停める。料金は300円と高額だった。山門から境内に入ると、堂々とした本堂が正面に建っている。その横にある多宝塔も立派だ。
本堂のお参りを済ませ、大師堂へ行く。その参道の中央に1匹の猫が横たわっていた。横たわった格好が少し妙で、頭をだらりと地面に付け、死んでいるような感じなのだ。近づいても微動だにしない。やはり死んでいるのだろうか。旅人が猫を覗いている横を、お遍路さんたちが何人か通りすぎて行った。「この猫死んどるのかね」という声も聞こえる。
そこへ家族連れがやって来た。「お母さん、猫がいるよ」と5才位の男の子が叫んだ。「ああ、かわいそうに死どるみたいだね」と母親が子どもに話している。その時、猫の髭がピクリと動いたのだ。「この猫生きていますよ」と旅人は声を上げた。「えっ、生きているんですか」と母親が言った。「ほら、髭が動いているでしょう」旅人は、髭が微妙に動いている所を指差した。「心配させる猫やね」と母親は笑った。何と猫は、道の往来で堂々と昼寝をしていたのだ。お遍路寺では、殺生する人はいないと悟りきっているのだろうか。この猫には参ったというしかない旅人だった。
大師像と多宝塔をスケッチした。時刻は午後4時半。今日のお遍路はこのお寺で終了にした。今日は、どこで野宿することになるのだろう。今から場所を探してあちこち放浪することになるのだ。「近くに道の駅があればいいのだが・・・」そう願いつつ、お寺を後にした。宿探しもお遍路する者の修行の場である。

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