仁王門を抜けると、石段がずっと先まで続いていた。本堂はその上にあるようだ。20段ほど上ったところで、息が上がってしまった。体調はやはりよくないようだ。階段で休んでいると、上から岩手のおじいさんが降りて来た。「体調はどうですか」と聞かれた。「まあ、何とかここまで来ましたが、あまりよくないようです」と答えると、「今日はもう終わられたらいいですよ」と旅人のことを心配してくれた。時刻は、午後3時半。今日はこのお寺で終了することにした。
青龍寺とは、弘法大師が中国留学中に、真言密教の秘法を伝授した恩師「恵果阿闍梨」が住んでいたお寺の名前である。帰国した大師は、この地へ巡錫し、ここにお寺を建て、恩師を慕って青龍寺と名付けたといことだ。大相撲の横綱「朝青龍」も青龍寺から名前を付けたという話だ。
お参りを済ませると、「先に行くからね。気を付けて旅をしなさい」と髭モジャの親父さんが下りて行った。あの人と、また会うことができるのだろうか・・・。
石段を下り始めて、スケッチを忘れたことに気が付いた。再び、階段を上る気力はなかった。それで、石段に座り込み、長い石段をスケッチすることにした。石段の脇のアジサイが美しい紫色の花を咲かせていた。
この日は、この先にある「すさき道の駅」で野宿した。夕食に買った「まぜご飯」は、半分も残し、試練の夜になった。風邪薬をしっかり飲んで寝たが、ひどい夜だった。旅先で病になることほど、心細いことはない。家庭・家族の有難さを思い知った。

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