午後5時少し前、八坂寺に到着した。納経所終了まであと数分。何とか間に合ったようだ。団体さんの一団が、マイクロバスから降りて来た。彼等も皆あわてている。「午後5時、納期所終了」という決まりは、どのお寺でもかなり厳格に守られているようだ。
納経を終え、お参りに行く。団体さんと一緒のお参りになった。彼等を案内しているお坊さんに、どこかのお寺で会ったような気がするのだが思い出せなかった。静かな境内に、般若心経が響き出した。お経はよく揃っていて、大きくなった小さくなったりしながら、旅人の体にも響いて来る。線香の白い煙が、合掌している人たちの間をゆっくりと流れて行った。
境内にあるベンチに座り、スケッチを始めた。すぐ前で、若いお坊さんが掃除をしている。お寺の一日もそろそろ終了するのだろう。気が付くと、黒い物が目の前を飛び交っていた。やぶ蚊に囲まれてしまったようだ。旅人は急いでスケッチを仕上げると、その場を退散した。不思議だったのは、若いお坊さんが、平然と掃除をしていたことだ。彼だって、やぶ蚊の攻撃を受けているはずなのに、どうして平然と掃除を続けてられるのだろう。「心頭を滅却すれば、蚊もまた涼し」ということなのだろうか。実のところは、「虫除けスプレーをしっかり塗っていた」ということなのかも知れない。
八坂寺のお参りを終え、松山市内から15kmほど山へ入った広田村にある「道の駅ひろた」で野宿した。大宮から四国旅行に来ていた夫婦連れと一緒になり、その夜は、楽しい晩餐になった。その夫婦連れは、旅人が住む細入村にある温泉にも、立ち寄ったことがあるという。旅の話は深夜まで続き、少々寝不足の一夜となった。旅することは素晴らしい。

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