石手寺のお参りを終えてから、道後温泉に入浴した。岩手のおじいさんも一緒だった。道後温泉は、お寺のような屋根が幾重にも重なり歴史を感じさせる建物だ。番台で入浴料300円を払って中へ入る。東風呂と西風呂の2ヶ所がある。どちらも同じ作りで、大きな湯船が真中に一つあり、簡素な造りだ。昔の銭湯というイメージだ。透明なお湯で、入ると肌がつるつるになった。旅人の住む細入村にある温泉のお湯に似ていると思った。
岩手のおじいさんは、今日は松山市内を見学するという。旅人は、さらに先へ進む予定だ。もう、おじいさんに会うことはないようだ。旅人は、おじいさんが、お遍路が無事終了し、元気に岩手へ戻ることを祈りながら、おじいさんと別れた。
松山市内の渋滞する道を走り、太山寺に到着した。歴史を感じさせる立派な本堂が建っている。お参りを済ませ、本堂をスケッチした。「お前さん、どこへ腰掛けて絵を描いているのかい。井戸の所に腰を掛けていてはバチが当るぞ」と掃除に来たおじいさんから怒鳴られた。何の疑問もなく、これは具合がいいと、井戸の淵に腰を掛けていた旅人だった。怒鳴られて初めて、それがいけないことだったと気付いた。穴があったら入りたい気持ちだった。
子どもの頃、大人たちからいろいろ言われたことを思い出した。「敷居は跨いで通りなさい」「靴は、きちんと揃えて脱ぎなさい・・・」その中に「井戸には神様が住んでいるのですよ」と井戸をお参りしたこともあった。常識的なことを、かなり欠落させたまま、この年まで生きてしまったようだ。自分の子どもに常識が欠けているのは、仕方のない話なのかも知れない。非常識を深く反省した旅人だった。

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