仙遊寺から次の札所「国分寺」へ向う。お寺の道路標識を見落とし、道に迷ってしまった。道標がしっかりしている愛媛では初めてのことだ。コンビニを見つけて道を尋ねた。「国分寺は、ここに地図がありますからどうぞ」と手作りの地図を渡された。お遍路さんに対して店員さんは親切だった。
国分寺とは、西暦741年、聖武天皇の勅願により、五穀豊穣、国家鎮護のため、国分尼寺とともに国ごとに建てられたお寺である。このお寺、伊予の国分寺で、立派なお寺だった。阿波の国分寺、土佐の国分寺、讃岐の国分寺もお遍路寺の一つになっている。
お参りを済ませ、大師堂をスケッチした。まだ紙の大きさが掴めないようだ。「絵を描いているのかい」と野球帽を被った親父さんが声を掛けて来た。「お遍路しながらお寺をスケッチしています」と旅人は答えた。親父さんは、この近くに住む人だった。いろいろ話をする内に、お遍路寺で見掛けた作業着姿の不思議な男たちの話になった。
「あの人たちかね。あれは、巡礼代行といって、誰かに代わって、納経帳や掛け軸や白衣に朱印を貰い、それを高いお金で売っている商売さ。お遍路に行きたくても、仕事が忙しくて行けないとか、病気とか高齢になってしまって、行けなくなったとか、そういう人に頼まれてお遍路しているのさ」親父さんの話はなかなか面白い。「値段も凄いらしいぜ。掛け軸が20万円近くいるという話だ」お遍路の世界にそんな商売が存在しているとは、信じられない話だった。「がんばりなよ」親父さんは、励ましの言葉を残して去って行ったが、興ざめした旅人だった。

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