石鎚山中腹にあり、昔から山岳仏教の霊場として栄えた横峰寺へは歩いてしか行けなかったそうだ。近年になって林道が整備され、近くまで車で行けるようになったとのことだ。
険しい山道を上って行く。対向車が来れば、退避しなければいけないような細い道が続く。「この先料金所あり」と看板が見える。有料道路になるようだ。道の真中に、料金所の建物が見えて来た。坊主頭の親父さんがいる。「小型車は1400円です」と料金を請求された。「片道ですか」と驚くと、「いや、往復だよ」と親父さんは笑った。それにしても高額な料金だった。
駐車場に車を停める。お寺までは10分ほどだそうだ。駐車場の階段を下りた所に真っ黒に日焼けしたお遍路さんが托鉢していた。身なりはぼろぼろで、口髭が伸び、薄汚い姿である。菅笠を被り、数珠を手に、托鉢用のお椀を手の平に載せ、お経を唱えている。足元には、衣服の入った粗末なキャリアカーが置かれていた。弘法大師もこういう姿でお遍路していたのだろう。お椀の中には、小銭が幾らか入っていた。托鉢に応じる余裕は旅人にはない。「ご苦労様」と声を掛けてその前を通り過ぎた。男の白い目が寂しそうだった。
正面に立派な社が見えて来た。お寺と神社が合体したような建物だ。これが本堂である。こういう建物を権現造りというのだそうだ。お参りを済ませ、本堂をスケッチした。「お寺を細かく描くのではなく、風景の全体を描く」という気持ちでスケッチした。鉛筆が走り、ようやく満足できるスケッチになった。

クリックすると大きくなります