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旅人が笠寺から転居して15年近い年月が過ぎた。笠寺観音かいわいの風景はかなり様変わりしているが、笠寺商店街のこの風景はそれほど変化していないようだ。手前に見える「うなぎ」と看板の掛かる「鳥辰」は以前と同じように商売を続けていた。
子どもの頃、笠寺観音恒例の「六の日の縁日」に出掛けた時のことを思い出した。この通りには、露天がぎっしり並んでいた。露天を一軒一軒覗きながら歩いていると、何だか香ばしい匂いが漂って来る。今までに嗅いだことのない美味しい匂いである。
「何の匂いだろう」と、その匂いのする方へ進んで行くと、白い煙がもうもうと立ち込める小さな店に行き着いた。その匂いはその店の中から漂ってくるようだ。そっとその店の中を覗き込むと、お上さんと親父さんが炭火をうちわで仰ぎながら何かを焼いていた。垂れが、炭火に落ちるとジュッと音がして、白い煙が上がる。匂いの正体は、その白い煙だった。しばらくして分かったのだが、焼いていたのはうなぎだった。
それから、ちょくちょくその店を覗きに行ったが、スズメやニワトリも焼いていたような気がする。いつも恨めしい気持ちでその匂いを嗅いでいた思い出が残っている。