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笠寺商店街に、甘党の店と看板が掛かるお店「角重」がある。売り物は、あんみつとか宇治金時。食べた人の話によると、「あんみつは、脳天に響く甘さで、看板にいつわりなし」とのこと。しかも、値段は300円というから今時には、ぴったりのお店である。甘党の人にはおすすめの店である。
この店の旅人の思い出は、看板に文字のある「氷」についてである。
それは、夏の暑い昼下がりであった。小遣いの少ない旅人には、かき氷を買うお金はない。それでも、冷たいものが食べたい。それで、この氷屋へやって来たのだ。氷を削る機械を見つめ、じっと待っているのは、かき氷を作った最後に出る薄っぺらな氷の塊である。もうこれ以上、機械では削れないという薄っぺらな氷の塊を、5円とか10円で売ってもらうのだ。
しばらくして、「お待ちどうさま」と新聞紙に包まれた氷の塊を、店のおばさんから手渡された。冷たい氷をしゃぶりながら商店街をうろついていた旅人の姿が脳裏に蘇えってきた。名古屋に「カチワリ氷」が生まれる以前の話である。
冷蔵庫が普及し、家庭で氷が作れるようになった時代だが、かき氷は、やはり、お店屋さんのものに限る。今度、笠寺商店街に行ったら、「角重」に入って、宇治金時を注文し、脳天に響く甘さを味わってみようかな…。