
F4サイズ
桜が満開の石橋を渡ると、厳つい顔の二体の仁王様が出迎えてくれた。仁王様は、今は、鳩などが入らないように金網で守られているが、旅人が子どもの頃は、金網はなかったように記憶している。
この仁王様には、忘れられない思い出がある。それは旅人が小学校二年生のことである。笠寺観音で写生会が開かれた。母親に連れられて参加した。白い画用紙とクレパスではなく、なぜか絵の具が手渡された。絵の具はその時初めて触った。
そして描き始めたのが、仁王門の右に立つに王様だった。絵の具を扱う技術を何一つ知らない旅人は、チューブから絵の具を出すと、いきなり紙に塗りたくったようだ。白い紙の中に、真っ赤に塗られたに王様が、描かれていたことを、今も鮮明に覚えている。
「あの時描いた仁王様は、子どもの絵だったけど、迫力があったよ」とお袋がいつも自慢していた。きっと金網がなくて、直接、仁王様と対峙したから、描けたのではないだろうか。
遅まきながら、ようやく桜が満開の仁王門を仕上げることができた。今度は仁王様を描こうかな?