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何年か前のことになる。旅行雑誌「サライ」の表紙を、細入の風景が飾ったことがある。「激しい豪雨に耐えて、山桜が待っていてくれた」というタイトルの神通川の写真だった。
「こんな風景が神通川にあったかな」とその写真をみて不思議に思った。よくよく考えて、片路峡ではないかと思ったのだが、濁流が渦巻き、いつも見慣れていた片路峡の風景ではなかった。知人に見せたら、「これ、本当に片路峡かい」と知人も驚いていた。
梅雨前線が居座り、豪雨が降った日、その光景を目にした。いつもは、川原が広がる片路峡は、濁流が渦巻き、見たことのない風景が広がっていた。
さっそく、吉野橋の上でスケッチを始めた。通り過ぎる車が、クラクションを鳴らしながら走り去っていった。「こんな日にスケッチとは、物好きな人がいるものだ」と思ったのだろう。
家へ帰って、「サライ」を引っ張り出して見てみると、その時の豪雨はもっと凄かったようだ。本当に、決定的瞬間だったからこそ、表紙を飾ったのだと理解した。