
F4サイズ
笠寺観音の水かけ地蔵を描かなくてはと、手洗い場にあるお地蔵さんを眺めていたら、人のよさそうなおじいさんが話し掛けてきた。
「おみゃーあさんは、水かけ地蔵を眺めていりゃーすが、この水かけ地蔵が入っとる手洗い場の建物の方が、値打ちがあるんだよ。描くならこの建物を描いてほしいなあ」とおじいさんは話出した。
おじいさんの話では、この建物は、寄席棟作りという手法で作られ、これほど立派な手洗い場は、全国的にも数が少ないということだった。
おじいさんの話の中で、一番驚いたのは、この建物を寄贈したのは、笠寺出身の「小菅剣之助」という人で、将棋界では今も昭和時代の名人として語り継がれているということである。柱には、昭和八年小菅剣之助寄贈と大きな看板が掛かっていた。
「この巨大な石の手洗い桶にも、小菅剣之助の文字が刻まれているのだが、水かけ地蔵がじゃまをして見えなくなってしまったよ」とおじいさんは恨めしそうにお地蔵さんを見つめていた。
旅人は、水かけ地蔵は、後回しにして、立派な手洗い場を絵にした。おじいさんは満足してくれるかな?