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岐阜県と県境を接する細入地域に、「加賀沢」と呼ばれる所がある。今も、家が一軒あり、夏場の鮎釣り時には、人が住んでいるような気配がある。昭和の三十年代には、ここに集落があり、大勢の人々が生活していたのだが、急速に過疎化が進み、今は廃村となっている。
この地域に残る民話はないか調べていて、ようやく見つけたのが、「狐に化かされた山伏」というお話である。
蟹寺から加賀沢へ向かって歩いていた山伏が、道で昼寝をしていた狐を馬鹿にしたことから、ひどい目にあうという民話で、石灰岩を焼いて肥料になる石灰を作っていた石灰焼き場がここにあったという話も出てくる。当時の様子が、かいま見られる民話である。
調べてみたら、蟹寺や加賀沢には、良質の石灰岩が取れる所が何箇所もあり、明治時代には、ここから笹津まで馬に石灰を積んで運んでいたということだ。石灰岩は、地域を支える大切な資源として活用されていたようだ。民話は、その当時の人々の暮しや考え方を知る上で、貴重な手がかりを与えてくれるものだということを認識した。
今、加賀沢を流れる宮川は、秋色に染まっている。昔、ここに住んでいた人がこの絵を見たら、何を思うのだろうか?