富山から親不知 10時22分発糸魚川行普通列車に乗車。車内はがら空きである。海側のボックスを確保する。列車が走り出し、しばらくして遠くに青い日本海が見え始めた。白い波頭が見える。かなり風が吹いているようだ。魚津駅を過ぎる。この辺りは蜃気楼現象で有名な地域だ。ぜひ見たい景色だ。黒部を過ぎ、列車は海岸沿いを走るようになり荒れた日本海がよく見えるようになる。越中宮崎駅にはヒスイ海岸という看板が立っている。日本海のどこかで翡翠が拾える海岸があるという話を思い出した。糸魚川だったように思ったが、ここでも拾えるのだろうか。市振駅に到着。海岸がすぐ駅の横まで迫っている。波しぶきが飛んできそうな距離た。風除けの壁がプラットホームの横に立っていた。いよいよ次が親不知だ。
長いトンネルを抜け11時半過ぎ列車は親不知駅に到着。寂れた無人駅に下車したのは私一人だった。巨大な橋脚がずらりと並んでいる。北陸高速道路と国道8号線の橋脚だ。橋脚が海岸線をさえぎって、日本海はその隙間からしか見られない。駅前に親不知を案内する地図が立てられている。景勝地親不知まで4キロ、バス15分と表示されている。バスが走っているのだろうか。
地図を見ている所へおばあさんがやって来た。 「親不知へはバスも出ているのですか」と、聞くと、「以前はバスもあったのですが、今は走っていません。15分位行った所に漁火というレストランがあります。そこから親不知の海が見えますから、ぜひそこへ行かれたらどうですか。」と、おばあさんは、にこにこしながら親切に説明してくれた。
この道を歩いて行けば、親不知まで行けるようだ。とにかく歩いてみようと、防寒具に身を固めて、雪が舞う強風の吹く道を歩き始めた。
突然、男性が停まっている車から飛び出した。フェンスを飛び越してホームへ駆けて行く。手にはカメラを持っている。写真を撮りにやって来た人のようだ。しばらくして特急列車が親不知駅を通過して行った。
被っている帽子が飛ばされそうになる。どの位の風が吹いているのだろうか。20メートルを超えていそうな気がする。すぐ近くに海があるのに道路や橋脚が邪魔をして見えない。こんなふうに景観が変わってしまったことを、この土地に住む人は喜んでいるのだろうか。