5 韮崎市から甲府市へ その3 午後3時、甲府の街中へ到着した。「丸の内」と番地が表示してある。高いビルが建ち並び大都会だ。時刻は少々早いが、今日はここで宿泊するつもりだ。「宿を見つけよう」と思った。大きな交差点から1本中へ入った所にビジネスホテルの看板が出ていた。そこで聞いてみることにした。「ごめんください」声を掛けたが、戸が閉まっているようだった。隣りにあるラーメン屋のおじさんが出て来た。「午後4時になったら店の人が来ると思うが、本館があるからそこへ行くといいよ」とおじさんが親切に本館の場所を教えてくれた。
そこから少し歩いた所に本館はあった。「今、電話を貰った人ね。部屋は空いているわ」とお上さんは言った。ラーメン屋のおじさんが電話してくれたようだった。1泊3500円だった。どんな部屋だろうと不安だったが、バス・トイレが付いていて小奇麗な部屋だった。都会には破格のビジネスホテルがあるのだと驚いた。
今度の旅にはデジカメを持って来た。今までは一眼レフの重いカメラだったのだが、スケッチを中心して旅日記をまとめようと考えて、軽いデジカメにした。しかし、残念なことにデジカメのフロッピーが甲府で書き込みができなくなってしまった。新しいフロッピーを買わなくてはいけないのだ。甲府は大都会。すぐにパソコンショップが見つかるものだと思っていた。
ビジネスホテルのお上さんに、パソコン販売店を尋ねたが要領を得ないので、探しに出掛けることにした。少し歩くと甲府の銀座通りだった。今日はお祭りが行われていて、テレビでよく見るねじり鉢巻に法被を着た男性や女性が神輿を担いでいた。「ワッセー、ワッセー」威勢のよい掛け声が飛んでいた。
「この辺りにパソコンを売っている電気屋さんはありませんか」チラシを配っている時女性に尋ねた。「そこにデパートがあるから、その中で売っているかも。聞いてみたら」とデパートの場所を教えてくれた。大きなデパートだ。当然デジカメのフロッピーが置いてあるものだと思った。パソコン売り場を見つけ、係の人に尋ねた。しかし、返って来た返事は「残念ですが、置いてありません」だった。「駅の北口にパソコンショップがあったように思います。そこへ行ってみてはどうでしょう」と係の人が申し訳なさそうに言った。
甲府駅の中を通過して北口へ行った。すぐ目の前にあるビルの窓に「パソコンショップ」という看板が掛かっていた。「フロッピーが手に入る」と思った。ビルの入口から中へ入ったが、ゲームセンターと飲食店があるだけだった。「えっ、これはどういうこと」不思議に思って、ゲームセンターの店員に尋ねた。「パソコンショップは移転しました」という素っ気無い返事が返って来た。甲府駅周辺にはパソコンショップはないようだ。
「こうなったらタクシー運転手に聞くしかない」と駅前に停車しているタクシーに乗車した。「すいませんが、パソコンショップへ行ってくれませんか」と言った。「パソコンショップですか。郊外に山田電機があります。そこでいいですか」と運転手が言った。「デジカメのフロッピーが欲しいのだけど」と言うと、運転手は本社に無線でデジカメのフロッピーがあるかどうか聞いてくれた。「置いてあるそうですから、発車します」そう言って、運転手は車のアクセルを踏んだ。
タクシーの中では話が弾んだ。気さくな運転手だった。私が道を歩いている話をしたら、「山梨県は本当に不便な所だよ。車がなかったらとても生活できないよ。バスなんか1時間に1本も走っていないところが多いから、車がないと生活できないよ。だから、家族の数だけ車があるところだよ。車が生活の中心になって、駐車場のある中心部から郊外へ大きなスーパーも移転して、ますます車がないと生活できなくなったよ」と運転手は山梨県の交通事情について説明してくれた。「車を運転しなければ飲み屋にも行けないのだからね。飲酒運転の取り締まりをすればお客が減ると警察へ苦情が行くそうだよ。取り締まりもなかなかできないみたいだね」という話まで飛び出した。
渋滞した道路を30分ほど走って山田電機へ到着した。タクシー代は2500円を超えていた。山田電機でフロッピーを購入し、再び、同じタクシーに乗ってホテルへ帰った。ホテル代は格安だったが、タクシー代とフロッピー代で1万円はあっという間に消えて行った。歩き旅も結構お金がかかるものだ。
午後6時、銀座通りへ出掛け、ラーメン屋で味噌ラーメン食べた。帰りにコンビニでビールとつまみ、それから明日の朝食を買い、ホテルへ戻った。風呂に入り、下着を洗濯した。その後、旅日記を整理していたら、疲れがどっと出て来た。9時過ぎには灯りを消してベッドへ潜りこんだ。