第2日 岬の分教場へ その1 朝5時半起床。向かいのお遍路さんたちの部屋から話し声が聞こえてくる。洗面を始めたようだ。6時を過ぎて窓の外が明るくなって来た。今日も天気はよさそうである。洗面を終え、荷物の整理をしていると食事を知らせる放送が入った。時刻は6時45分。あわてて食堂へ行くと部屋は白装束の老人たちで満員であった。昨日の夕食と同じように係りの人から挨拶があり、般若心経の唱和が始まった。今日は白装束でない客が私以外に2人いた。バスの運転手さんたちだった。お経を唱えていないのは3人だけだった。お経が流れる中で私は運転手さんたちと食事を始めた。不思議な雰囲気の中での食事だった。
女将さんが用意してくれた昼の弁当を持って7時半に旅館を出発した。国道を安田の中心街まで行ったが、今日は春分の日で町の中はひっそりとしている。大きな交差点を左に折れ、坂手港という表示が出ている方向へ歩いて行く。ここから岬の分教場まではおよそ9km、10時ごろには到着できそうである。

町中を出る辺りで高い煙突のある大きな黒い建物が見えてきた。マルキン醤油と表示がある。安田の交差店の所にも佃煮の店があったが、小豆島は大豆を加工して作る醤油が特産品のようだ。木造建築の醤油工場からは歴史が感じられる。醤油記念館は残念ながら早朝なので開いていなかった。

醤油工場から少し行った所の小高い丘の上に黒島伝治文学碑が立てられていた。「小豆島出身の作家で『二銭銅貨』が貴重な日本の文学遺産になっている。」と説明がある。「一粒の砂の 千分の一の大きさが 世界の大きさである」という文字が石碑に刻まれていた。丘の上からは、マルキン醤油工場の黒い屋根と静かな瀬戸内海が見えていた。
古江に到着した。左「坂手港」、右「二十四の瞳映画村」と道路標識が出でいる。右に向かって歩いて行く。道路は海岸線に沿って続いているようだ。車がほとんど通らない道を静かな海を見ながらのんびり歩いて行く。ウグイスの鳴き声も聞こえるようになった。今日設定したウオ‐キングの道は安田から安田に戻る周遊コースになっている。まだ歩き始めたばかりだが、見学地もたくさんあり、お薦めのコースになりそうだ。

大きな別荘が海岸に建てられている。その上の斜面にも別荘が建っている。しかし、よく見ると廃屋のような感じである。ここへ来る途中にも倒産して荒れ果てた大きなホテルがあった。バブルが弾け、そして今、大不況の真っ只中、こうした光景は普通のものになってしまった。地域から遊離したものは結局潰れてしまうということなのだろう。
自転車に乗った若者が私を追い越して行った。自転車で観光巡りをしているようだ。あの若者の行く先も映画村だ。映画村のある島影が見えてきた。後2キロぐらいだ。