第2日 オリーブ公園~宿 1時過ぎ、映画村の受付で渡し船を呼んでもらった。岬の映画村から向かいにあるオリーブ公園を不定期だが渡し船が結んでいる。桟橋で待っていると、小さな船がやって来た。たった1人の客でも呼べば迎えに来てくれて、しかも料金500円。今時、タクシーだって基本料金は630円だ。格安である。
「対岸までどのくらいの距離ですか」と船長に話し掛けた。
「およそ3kmだね。10分ほどで着きますよ」船長はハンドルを操作しながら答えてくれた。
「1年中営業しているのですか」
「3月から11月までですが、土、日が主で後は休んでいる日が多いね。最近は車で映画村へ行く人ばかりが増えて、この渡し船を利用する人が少なくなってしまいましたよ」船長は商売あがったりという表情だった。10分ほどで対岸のオリーブ公園前に到着した。礼を言って船を下りた。
小豆島民族資料館の横を通り、国道を渡って坂道を上って行った所がオリーブ公園である。瀬戸内海を見下ろす美しい景色の中に公園は作られている。中心になる建物がオリーブ記念館で、ステンドグラスの窓やアテナ像などが飾られ、オリーブからできる製品もたくさん並べられていた。記念館の前にはモニュメントが飾られ、その周りにはオリーブの木が植えられていて、子どもたちが芝生の斜面を楽しそうに滑っていた。

公園にはおもしろい形のギリシア風車も建てられていた。スケッチに描けそうな感じがしたので、場所をいろいろ替えてスケッチに没頭した。気が付いたら時刻は4時を過ぎていた。2時間近く公園で絵を描いていたようだ。スケッチをしながら旅をするというのも案外楽しいのだなあと思った。
オリーブ公園から旅館のある安田まで国道を歩く。およそ5km、5時過ぎには旅館に着けそうだ。道は海岸線に沿っている。車が多く、路側帯の幅が狭い所もあり、少し危険を感じた。海岸の波打際で老人たちがくまでを使って何かを掘っているのが見えた。貝を採っているように思えた。
午後5時過ぎ、旅館に戻った。今日のウオ‐キング周遊コースは、歩いた距離は18kmくらいだろうか。見学場所も多く、渡し船もよかった。スケッチも何枚かでき、満足した1日だった。お勧めのコースになりそうだ。
「お帰りなさい。夕食は別室に用意してありますから、そちらで食べてください」と女将さんに言われた。お遍路さんでない私を気遣ってくれたのだろうか。夕飯の前に風呂へ行った。先客が3人いた。もちろんおじいさんばかりだ。
「どこから見えたのですか」一人のおじいさんに話し掛けた。
「岡山県の新見です。毎年春と秋に、この宿に泊ってお遍路をしているのです」おじいさんは気さくに答えてくれた。
「今回は3泊4日で八十八ヶ所を廻ります。明日が最終日です。毎年ここへ来られる事が元気な証拠です。ここへ来ることを目標にして毎日を生きているようなものですよ」おじいさんの話から、お遍路さんの気持ちが少し分かったような気がした。よく見ると、おじいさんの左胸に丸いものが埋められていることに気付いた。心臓のペースメーカーだ。おじいさんの言葉に一層の重みを感じた。「秋にも元気で、お遍路さんに来てください」と思わずにはいられなかった。
夕食は別室で、1人で食べた。遠くから般若心経が聞こえて来た。不思議な雰囲気で食べた朝食の時のことを思い出していた。夕食を終え、部屋に戻る途中におみやげ品を並べた棚がある。その中に「讃岐うどん」が目に付いた。3人分入って240円。地元の名産品が格安の値段である。自宅に宅急便で送ることにした。10袋送料混みで3000円也。受け取ったかみさんは何と言うのかな。
明日はどうしようか。まだ計画は何も立っていなかった。朝、女将さんに勧められた寒霞渓谷を歩いてみようかと地図で調べた。遊歩道が付いていてぐるりと1周りできそうだ。この旅館でもう1泊することにした。賑やかなお遍路さんたちの話し声も9時前には聞こえなくなった。私も電気を消して床に入った。明日も天気はよさそうである。