その3 道端の小川からは軽やかな水の音が聞こえ、春はもうそこまで来ているようだ。この辺りから道は急な上り道になった。息を弾ませながら、ぐんぐん道を上って行くと、道端の雪がだんだん深くなってきた。そして、日陰になったカーブの所からいきなり雪道になった。十センチ近く雪が積もっている。滑らないように注意しながら、車の轍の中を進んで行った。

カーブを曲がった所に「むらおこし加工施設」という看板がかかった建物があった。地図には「岩倉村おこし組合」と表示がある。中を覗くと、四人の人が白い服を着て働いていた。「何を作っているのですか」と、声を掛けると、一人のおばあさんが手を休め「味噌を仕込んでいるんです」と答えてくれた。「ちょっと見学させてください」と言うと、おばあさんは、施設の中を親切に案内してくれた。
「味噌は、百%県内産の大豆と地元産こしひかりの米こうじを使って作っています。この味噌はここだけで販売しているのですが、結構評判がいいですよ」と教えてくれる。「ちょっと食べてみますか」と、わざわざ倉庫から残っていた味噌を持ってきてくれた。「塩が強いから濃いかもしれないよ」と渡された小さな味噌玉を口に入れると、大豆の香りがふわっと口の中に広がった。食べ終わった後も、大豆の香りがいつまでも口に残っていた。「この味噌を分けてください」というと、「いいですよ」と、おばあさんは、主任のおじいさんを呼びに行った。「一番小さいのでいいのですが」と言うと「一番小さいので五キロしかありませんが、いいですか」と言う。五キロでは、リュックに入れて担いでいくには荷物なので、宅急便で自宅まで送って貰うことにした。郵送代を含めて四千二百円を支払う。満足のいく買い物ができたことで心はウキウキしていた。「JRのウオーキングが始まったのですね。昨日も二人連れが道を歩いて行きましたが、今朝の雪で峠はだいぶ雪が積もっているから気をつけて行きなさい」と、おじいさんとおばさんに見送られて、村おこし組合を出発した。