第2日目 午前6時起床。気温が低く寒さを感じる。洗面を終え、6時半宇出津駅前を出発。コンビニで朝食のおにぎりを購入した。宇出津から県道35号能登内浦線を走る。海岸に沿った狭い道だが、眺めはたいへんよい。断崖になった所もあり、慎重に走って行く。20分ほどで九十九湾遊覧船乗場に到着した。
九十九湾(つくもわん)
内浦を代表するリアス式海岸で、大小合わせて99のいりえがあることからこの名前が付いたという。港には遊覧船乗場があり、40分で湾内を一周できる。賑わうのはやはり夏のようだ。時期を過ぎていたので、切符売場は寂れた感じがしていた。すぐ近くに「のと海洋ふれあいセンター」があり、九十九湾の自然を紹介する展示施設や、海岸には自然観察路が作られていた。
県道35号線を北に向って走って行く。15分ほどで恋路海岸に到着した。
恋路海岸
恋路海岸の駐車場はよく整備され、キャンブ場も設置されている。浜辺は砂浜が広がり、海水浴場になっている。夏はたくさんの人で賑わっているようだ。
「恋路海岸」とはロマンチックな名前が付いた海岸である。男女の像が浜辺に作られ、鳥居の奥には、松が生い茂った弁天島が浮んでいる。恋路海岸には次のような話が残っている。
「恋に落ちた娘と青年は、夜ごと娘が焚く火を目印に逢瀬を重ねていた。ところがある晩、青年の恋仇が娘を閉じ込め、別の場所に火を焚く。お引き寄せられた青年は海の深みに身を取られて命を落とし、娘もその悲しみから海へ身を投じた」悲しい話である。毎年7月27日に行なわれる恋路の火祭りは、大松明が夜の海を赤く染めるという。
冷たい風が吹く浜辺でスケッチを始めた。今日1枚目のスケッチである。赤い鳥居と松が生い茂る弁天島を描くのは難しい。潮が引き、鳥居へ続く道が次第に現れて来た。広島の厳島神社の風景を思い出した。この弁天島と何かつながりがあるのだろうか。絵を描き終わり、遅い朝食にした。旅に出ると食事の時刻がいつも不規則になる。食べることより、いろいろ見て周りたいという気持ちが優先してしまうようだ。弁天島を眺めながら食べたおにぎりは美味しかった。
見附島(みつけじま) 
恋路海岸から10分ほどの所にある面白い形をした島である。軍艦の船首に似ているので軍艦島とも呼ばれている。白い色をした断崖の高さは30m。島のすぐ側まで岩礁伝いに歩いて行ける。海岸は大きな公園になっていて,キャンプ場や海水浴場がある。見附島のスケッチを始めた。女の子が近寄って来て「何やっているの」と片言の日本語で聞いて来た。私のスケッチブックを覗きこんで、「うまいね」と言った。「韓国から旅行に来た。今日はここに泊っている」と話してくれた。
国道249号線を走り、珠洲市内から県道28号線に入る。昨日から能登半島の海岸沿いの道を走り続けている。小さな半島だと思っていたのは大間違いで、大きな半島だった。午前10時過ぎ、能登半島先端の禄剛崎に到着した。
禄剛崎(ろっこうざき)灯台 
この灯台がある地域は狼煙(のろし)村である。古代から狼煙台が置かれ、狼の糞を焼いて狼煙を上げたと伝えられる。今は禄剛崎灯台がその役目を果たしているということになる。市営駐車場(有料)に車を置き、細い坂道を上って行くと、見晴らしの効く丘の上に白い灯台が立っていた。眼下に広がる日本海は白波を立てていた。灯台をスケッチした。
能登半島を輪島に向けて南に下り始める。県道28号線は断崖絶壁の上を走っている。遥か下に白い波頭を見ながらのドライブはスリル満点だ。対向車を心配しながら走って行った。絶景の海岸があるので、立ち寄ることにした。「木ノ浦海岸」と案内板が立っていた。
木ノ浦海岸 
木ノ浦健民休暇村として整備され、キャンプ場、テニスコートなどがある。木ノ浦海中公園に指定されていて、海域は国定公園特別地域になっている。漁をするにもいろいろ制限があり、「釣り禁止」の立札も立っていた。展望台からの景色は素晴らしい。この日も何組かのグループがキャンプをしていた。
絶景の道を走って行く。内浦を走っていた時よりも外浦の方が眺めがよい。県道28号線から国道249号線に入る。この辺りは曽々木海岸と呼ばれている。揚浜式の塩田が昔あちこちで作られていた所である。資料館があるというので立ち寄ることにした。
揚げ浜式塩田
かつての日本の塩作りは揚げ浜式だった。夏の炎天下、汲み上げた海水を塩田に撒いて濃い塩水を作り、大きな釜で煮詰めて塩を作る。輪島市仁江町には今もこの方式で塩を作っている塩田がある。日本に残っているのはここだけだという。総合資料館「奥能登塩田村」では塩作りが体験できる。資料館の前には塩田が広がっていた。時期が遅く、塩作りの体験はできなかった。
曽々木海岸
輪島市と珠洲市の境にある2kmほどの海岸をいう。流紋岩や縦、斜めの節理に沿って海食された美しい紋様を見せる断層や岩礁が続いている。「窓岩」は曽々木海岸のシンボルで、海岸線に突き出した岩に人が通れるほどの穴が開いていて、窓のように見えるのでその名前が付いた。観光バスや乗用車が駐車場に停まり、観光客が記念撮影をしていた。
曽々木海岸から国道249号線を15分ほど行った所に「白米千枚田」があった。「道の駅 千枚田ポケットパーク」が隣接していてそこから千枚田を眺めることができた。
白米(しらよね)の千枚田 
地すべり地帯の傾斜を開いた階段状の水田で、小さな田が重なり合っている。その数は実際には2090余枚ある。「むかし、この地方の殿様が田の数を数えてみたところ、999枚あったが、残り1枚がどうしても見つからなかった。立ち上がったら、自分が座っていた腰の下に1枚の田があった」という伝説がある。景観は極めて美しいが、ここでの農作業はすべて手作業とのこと。水田を整備して機械を導入する話もあるという。現在は地元住民とボランティアで農作業が行なわれているそうだ。田んぼの土手に座ってスケッチを描いた。農作業を終えた老人がゆっくり細い農道を上がって来るのが見えた。この千枚田を維持して行くには、たいへんな努力がいるように思った。
輪島市の街中にある朝市を見に行くことにした。時刻は12時を過ぎている。朝市ではなく昼市になってしまった。「朝市は終わってしまったのではないか」と心配しながら車を走らせた。街中は車が混んでいて、駐車場も満員で入れない。仕方なく、路上に駐車して車を降りた。
輪島朝市 
輪島の朝市通りにはずらりと店が並んでいる。店の数は200件近くあるという。朝7時半から商いが始まる。新鮮な魚や地元の野菜、漬物、輪島塗などの手工芸品。店に並ぶ商品はさまざまである。たくさんの人が買物に来ていた。威勢のいいおばさんの掛け声も聞こえて来た。時刻は12時を過ぎていたので、店じまいが始まっていたのが残念だった。通りにあるうどん屋で山菜蕎麦を食べた。
午後1時過ぎ輪島を出発。国道249号線を南下して行く。今日中には富山の自宅へ帰る予定なのでこれからはあまり寄り道はできない。まずは門前町にある総持寺を見学して行くことにした。午後2時総持寺山門前の駐車場に到着した。
総持寺祖院
1321瑩山禅師によって開かれ、その後曹洞宗の大本山となり、越前永平寺とともに雲水の修行道場として栄えた。全国17000の末寺を持ち、境内には大小70余棟の伝導伽藍を有していたが、明治31年に火災に合い焼失した。これを機会に伝導の本山を神奈川県鶴見に移して別院となった。その後再建が進み、今は祖院となっている。火災の際に焼け残った山門は立派で歴史を感じる。この寺を中心にして発展したのが門前町である。威厳のある山門をスケッチした。
国道249号線を一路、能登金剛を目指して南下する。午後3時過ぎ巌門に到着したが、時間がないので、海岸線をチラッと見た程度で出発した。
厳門 
海に突き出した大きな岩山の下が押し寄せる波にえぐられ、大きな口を開けている。小船なら通りぬけられるほどの大きさがある。この洞門の周辺には千畳敷岩、碁盤島、鷹巣岩などの奇石が多く、巌門巡りの遊覧船で海上から断崖を眺めることができる。ここは小説「ゼロの焦点」の舞台になった所で、遊歩道を巡れば、松本清張の歌碑もある。
国道249号線を走り続ける。午後4時過ぎ、能登半島の付け根、羽咋市にある千里浜へ到着した。これで能登半島一周をほぼ終えたことになる。
千里浜
押水町今浜から羽咋市千里浜にかけての約8kmの海岸は、細かい砂が海水を含んで固くなり、車が走れるドライブウェイになっている。夕暮れが迫った浜辺を観光バスやマイカーが引切りなしに走っていた。私も初心者マークを付けた車で走った。多少でこぼこはあるが、砂浜を走っているようには感じなかった。
親父さんが浜辺で釣りをしているので停車した。リールを沖へ向って投げ、しばらくして引き上げた。ぞろぞろと小さな魚が上がって来た。キスだった。しばらく見ていたが、面白いようにキスが釣れていた。
すぐ近くで2人のおばあさんが海の中に入って、盛んに足を動かしていた。足で何かを掘っているようすだった。「何が獲れるのですか」と声を掛けると「ほれ、こんなにかわいいアサリが獲れたよ」とバケツの中のアサリを見せてくれた。千里浜はドライブだけでなく魚釣りや潮干狩り、真夏は海水浴やキャンプを楽しむ人たちで賑わっているのだろうと思った。真直ぐに続く砂浜を走る車と砂浜に押し寄せる波とをスケッチした。
羽咋から国道415号線を走り、能登半島を縦断して再び氷見に戻る。ここで能登半島一周を本当の意味で終了した。時刻は午後5時を過ぎていた。
氷見から広域農道を走り高岡へ、高岡から国道8号線を走り、富山で国道41号線に入り、午後7時過ぎ無事自宅へ戻った。2日間で走った距離は、380kmになった。免許を取って間もなく1年を迎える。初心者マークを取る日はもうすぐだ。これからも安全運転に気を付け、いろいろな所を旅してみたいと思う。この次ぎは、初心者マークのない車に乗ってはどこを旅しているのだろうか…?(完)