「中山道・鳥居峠」を歩く その1 11月8日,土曜日。街道歩きには絶好の快晴。今日の街道歩きは久しぶりに何人かの人と一緒に歩く旅である。私が街道を歩いていることは,職場のみんなも知っているのだが,「たまにはみんなを街道歩きに連れて行ってよ」と言われ,計画した旅行である。
季節は紅葉の真っ盛り。目的地をどこにしようか悩んで,冬に歩いたカラマツの並木道はきっと紅葉が美しいのではないかと考え,目的地を鳥居峠にした。鳥居峠を越えるには中央線薮原駅で下車する。いつもなら,ふらっと列車に乗ってしまうのだが,連れて行く立場ではそんなこともできず,事前に時刻表を調べていたら,この日はJRの企画で南木曾から妻籠を歩くイベントが企画されていることが分かった。この時期では列車が満員になるのではないかと考え,今回乗る臨時列車「ナイスホリデイー木曽路号」の指定席券を参加者の分購入した。
午前7時30分自宅を出発。JR金山駅を目指して歩き慣れた道を急ぐ。特に早く行く必要はないのに30分も前に金山駅に到着。いつものように駅の売店でおにぎりを買いリュックに入れた。ホームに行くとたくさんの人が立っていた。服装を見ると通勤服のサラリーマンが多いようだ。土曜日でも勤務がある人が多い。私の場合は月に2回は土曜日が休みになっているので今日は気楽に旅行に出掛けられるのだが,まだまだ土曜日が休みになっていない人がたくさんいるようだ。多治見行きの列車が到着した。ホームで待っていた人たちはみんな乗り込んで行った。
横を見るとリュックを背負った10人ぐらいのグループがいる。どうやら私と同じ列車に乗るようだ。ベンチに座ってぼっとしていたらいつの間にかホームが人でいっぱいになってきた。どの人もリュックを背負って「今から歩きに行くぞ」という格好である。みな同じ列車に乗るようだ。
8時22分,8両編成の臨時列車木曾路号が到着。列車の中はすでに人で一杯である。一瞬自由席に乗り込んだのではないかと錯覚するほどの人が立っていた。やはり今日は紅葉を見に行く人たちで列車は一杯になっていた。私の座席は4号車。自分の座席を探して列車内を移動して行った。たくさんの人が立つ中に名古屋から乗った同僚たちの顔をやっとのことで見つけて,座席に座った。「指定席で本当によかったですね」から会話が始まった。この列車には4両の自由席が付いているが,今日はJR企画の歩く会が設けられていて超満員である。何でも名古屋駅では長蛇の列であったという。鶴舞,大曽根からも同僚が乗り,列車が名古屋市内を出る頃には参加者全員がそろい,今日の旅はスタートした。
途中で車掌が検札に来た。そこで新しい発見があったのだが,名古屋から薮原まで行くのにたまたま鶴舞駅から乗車した同僚が不思議な切符を購入していた。鶴舞駅で「この切符を買うと薮原まで行くのには安いよ」と駅員が親切に教えてくれたという。
その切符は名古屋からの「青空ワイドフリーパス」という名称であった。土曜日と日曜日と祭日にしか使用できないが,中央線は木曾福島まで,東海道線は二川~米原間などフリー区間が設定されていて,しかも料金が3570円と格安であった。私の切符は名古屋~薮原間往復で5040円である。フリー切符を使うと木曾福島~薮原往復460円を加えても4030円となり1000円も安いのである。こんな安い乗車方法もあるのかと改めて驚いてしまった。しかし,それにしても鶴舞駅の駅員さんは親切な人であったようだ。JRにとってはこういう切符を売ってしまったことで,儲けを減らす結果になったのだが,これからはこの切符を購入して出かけなくてはと私は思った。それにしても,JRがこの切符があることを時刻表に載せていないことに疑問を感じてしまった。
列車が多治見を過ぎた辺りから,周りの山々の紅葉の美しさに「すごいね」という声が聞こえるようになっていた。紅葉は列車が北に進むにつれてさらに増し,中津川を過ぎた辺りで,もう言葉にならないほどの美しさになっていた。
名古屋を出て2時間,南木曾駅に到着した。今日のJRの歩く会は南木曾から妻籠宿を巡るコースが設定されていたが,あれだけいた乗客のほとんどがこの南木曾で降りてしまい,車両は私たちのグループの貸切り状態になってしまった。JRの今日の企画は大成功のようだ。
南木曾から更に1時間ほど列車に乗ったところに薮原駅はある。私たちは座席に座り,周りの紅葉に見とれているばかりであった。

上松駅手前にある寝覚ノ床の景観も格別であった。木曽福島を過ぎた辺りで,黄色一色に紅葉した山が見られるようになった。よく観察するとそれはカラマツの紅葉だった。カラマツの紅葉を間近で見るのは,私は今回が初めてである。その美しさをどう表現したらよいのか言葉に困っていたら,一緒に来た同僚が「胸がキュンと締め付けられるような美しさですね」と表現してくれた。この辺りに住む人は,今どんな気持ちでこの美しい山を見ているのだろうか。

「今日は列車の中からこの景色が見られただけでもう満足」と,まだ鳥居峠を歩かない前に思ってしまった。