「中山道・鳥居峠」を歩く その2 10時49分,予定通り列車は薮原駅に到着した。ここで降りた客は私たちを入れて20人くらいである。そのほとんどが鳥居峠を歩きにやって来た人たちのようであった。11時、駅を出発。線路の下を抜けると薮原宿の古い町並みが残る中山道に出た。質素な町並みの中を5分ほど歩いた所にお六櫛を売る店があった。しかし,残念ながら鍵が掛かっていて,中を見学することは出来なかった。

そこから少し行った所に小さな商店があり,店先に大きくて美味そうな柿が並べてあった。あまり美味そうなので買って行くことにした。中に入って「表の柿は一ついくらですか」と聞くと「表に並べてあるのは全部渋柿ですよ」と言われ,大笑いになった。1箱3800円と値段が表示してあったので,てっきり甘柿だと思ってしまったのである。この村の人たちは渋柿も店先で販売していることに認識を新たにした。私たちは中にあった筆柿を一袋買い,店を後にした。

鳥居峠への道しるべが角々にきちんと出ているので,それに従って歩いて行く。線路を再び渡った所に「尾張藩鷹匠役場跡」がある。鷹の雛を確保するために設けた役所の跡で,ここからは薮原宿が一望できた。そこを過ぎると道はきつい上り坂になる。天降社という社の前にオオモミジの木が生えていた。残念ながら紅葉はすでに終わり,葉は散ってしまっていた。白い壁のペンション前を過ぎ、道の両側にカラマツ林が見え始めた。カラマツの針のような葉が黄色に色付き、青い空の色と重なり合っていた。カメラを持ってきた私たちはシャッターを盛んに切った。
紅葉の中山道を鳥居峠に向かって上って行く。前に自分一人で来た時はとにかく目的地まで行くことばかり考えていて,周りの景色を見る余裕はなかったが,今日は職場の仲間とやって来た。参加した一人一人が満足できるペースで歩いている。そのペースのおかげで,私にとっても今まで気が付かなかった発見につながった。参加した仲間の中に,ドライフラワーの材料にと、枯れた草の蔓や花,木の実等を採りながら歩く人もいた。枯れ草の実が弾けて不思議な形をしているものや,赤い実を付けている木などよく見ると結構美しい。今まで気が付かなかったが,こういう歩き方もあるのだと感心してしまった。

大きな看板が立っているのが見える。近づいて見ると,「熊が出没するので歩く時には十分注意しなさい」というものだった。以前来た時はこの立て札は立っていなかったので,最近新しく立てられたようだ。本当に熊が出れば心配なのだが,前来た時に聞いた話では,5年ほど前に,熊の足跡が残っていたことから熊への注意が呼び掛けられるようになったという。特に被害にあった人はいないという 話だった。

道はそこからは自然道になり、ぐんぐんと上って行く。道にはカラマツの葉が積もっていて絨毯の上を歩いているような感触がある。実に気持ちがよい。鐘が吊してあり「熊を避けるために鳴らしてください」と表示があった。峠を上るに連れて眼下に薮原の家並が小さく見えるようになってきた。美しく色付いた木の葉の間から見る薮原の町は美しい町だった。
1時間ほどかかって鳥居峠丸山公園に着いた。ここには芭蕉の句碑や鳥居峠を記念した石碑などがたくさん立っている。時間はちょうど12時。私たちの前を歩いていたグループが食事を摂っていた。私たちもここで昼食にすることにした。私はいつものように朝買ったおにぎりを食べた。手作りのお弁当を食べている仲間もいる。食後に薮原の小さな商店で買った筆柿を食べる。カラマツの紅葉した林の中で食べる柿の味は格別であった。ふと前を見ると,白い肌をした太い木が太陽の光に幹を輝かせていた。ダケカンバという白樺に似た木だった。