「中山道・鳥居峠」を歩く その3 鳥居峠の記念碑の前で記念撮影をして、12時40分奈良井宿を目指して出発した。そこから少し上ると御嵩神社がある。この神社の裏手には不思議な感じのする仏像が幾つも並んでいた。

神社を過ぎ、下り坂になった所に大きな栃の木が何本も生えていた。子宝の栃という立て札の立っている木もある。葉はすっかり落ちてしまっているが,木の下を探すと割れた栃の実の殻が幾つも見つかった。きっとたくさんの実を付けた栃の木が数週間前にはあったのだろうが,その実は残念ながら見つけることはできなかった。崖の所には人の踏み跡が幾つも残っていた。この実を目的にやってきている人がたくさんいるのだろうと思った。

そこから少し行った所で,山の斜面全体にカラマツが生えている風景を目の前にした。その紅葉の美しさは言葉でどう表現したらよいのか困るほどのものであった。また,その場所からは薮原の山を眺望することができ,ここからの景色も実に素晴らしいものだった。同 僚の一人が「昨年南木曾で見た紅葉が私の人生の中で一番最高だと思っていたけど,今日の景色はこれを越えてしまったようだ」と,うっとりした顔で語ってくれた。

20分ほどそこで休んだ後,緩やかな坂を下ると,休憩所が設置されていた。トイレもきちんと設置されている。ここからは奈良井宿の全景を見ることができた。奈良井宿から上ってきた人たちはここで休憩するのだろうと思った。残念だったのは送電線が何本も道に沿って張ってあり,美しい眺めの障害になっていたことである。電線の張り方に配慮すれば,景観をもっと売り物にできるのではないかと思った。

ここからは本格的な下り道である。こちら奈良井宿という道標のある道をぐんぐん下って行く。しばらく下ると,向かい側の山全体が見渡せる所に出た。向かいの山はカラマツとダケカンバが半々に生えているようで,黄色いカラマツの紅葉とダケカンバの白い幹の色が不思議なコントラストをなしていた。更に下って行くと,カラマツ林の中の道になった。カラマツの葉が降り積もり、絨毯の中を歩いているようだ。ふと見ると何か細い物が太陽の光を浴びてキラキラ光りながら落ちている。 何とカラマツの落葉の瞬間なのだ。「風が吹くとサラサラと音をたてて落ちるカラマツの落葉は本当に素晴らしいよ。それが見られたらいいね」と出発する時に上さんの言った言葉を思い出した。サラサラと音はなかったが,太陽の光にキラキラ輝いて落ちるカラマツの葉の美しさに,胸がキュンと締め付けられる思いがした。カメラのシャッターを盛んに切ったが,その繊細な落葉の瞬間はとても撮せるものではなかった。

私たちは美しい紅葉に満喫しながら,カラマツ林の中を下って行った。