水彩画で綴る  細入村の気ままな旅人 旅日記

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廃線になった旧神岡鉄道の思い出

粉雪が舞う奥飛騨神岡へ

 2月も立春を過ぎ、春が近づいている感じはするのだが、連日湿った雪が降り続き、積雪はまだ50センチ近くある。雪国の春はどんな形でやって来るのだろう。一気に雪が溶け出すのだろうか。それとも、じわじわとやって来るのだろうか。雪国に住み始めた新米の私にはよく分からない。今は、好きな道歩きに出掛けたいという気持ちを押さえ、家でじっと我慢する毎日だ。そんなある日、新聞に「雪祭り」開催のチラシが折り込まれているのを見つけた。開催される場所は岐阜県神岡町。私が住む細入村の隣村でもあり、出掛けてみることにした。

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 14時26分楡原発高山行普通列車に乗車した。この日も午後から雪がちらつき始めた。列車から見える国道の脇には除雪された雪が壁のようになっている。列車は国道を下に見ながら進んで行く。幾つかのトンネルを抜け猪谷駅に到着した。ここで神岡鉄道に乗換える。

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 向かいのホームに「おくひだ1号」というプレートを付けた1両編成の列車が停まっている。フラッシュが焚かれている。列車の前で記念撮影をしているようだ。神岡の雪祭りを見に行く人なのだろうか。そんなことを思いながら、列車に乗り込んでびっくりした。車内は超満員である。座席はすっかり埋まり、立っている人もいる。みな胸にバッチをつけている。団体旅行でやって来た人たちのようだ。今日は3連休の初日。奥飛騨温泉へ出掛けるのだろうか。手に缶ビールやカップ酒を持ち、上機嫌で話す人もチラホラ見える。車内は和やかな雰囲気で包まれていた。列車の中には囲炉裏が作られ、天井から鉄瓶が吊り下げられていた。囲炉裏の周りは談笑スペースになっていて、そこでもこれから出掛ける温泉の話で盛り上がっていた。

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 14時41分列車は定刻通り猪谷を出発した。神岡鉄道は、猪谷と奥飛騨温泉口を結ぶ山間 の小さな鉄道である。以前は国鉄だったが、昭和59年、第3セクターとして開業した。利用客が少なく、経営は厳しいのだろうが、現在も営業を続けている。列車は、トンネルを幾つもくぐり抜けながら、ゆっくりと神通川の上流高原川に沿って進んで行った。

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 15時8分飛騨神岡に到着した。満員の列車から下車した人は私を含めて5人。その中で雪祭りを見物に来た客は私だけだったようだ。駅前の案内板で地図を確認してから、歩き始めた。道の雪はきちんと除雪され、歩き易い。駅前から大通りを小さな山田川に沿って下って行く。橋を渡った所に商工会議所の建物があった。ここが雪祭りのパレード出発点となっているが、会議所の前は時間が早いためか、お祭りの雰囲気がしなかった。
 
 時刻は午後3時半、パレード出発まで3時間近くある。ゆっくり町の中を見学することにした。持っているチラシに「3時半から洞雲寺でだるま市が開かれている」とあるので、そのお寺へ行ってみることにした。小さな町だとばかり思っていた上岡の町は、商店がずらっと並び、旅館やホテルもあり、予想以上に大きな町だった。通りの商店街の軒先には赤い提灯が飾られ、祭りの気分を盛り上げていた。

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 商店街の外れに洞雲寺はあった。階段を見上げると大きな鐘楼が目に入った。「ゴーン」と鐘の音が響いて来た。もう祭りは始まっているようだ。階段を上り、洞雲寺境内に到着。大きなお寺である。境内では、法被を着た人たちが忙しそうに焚き火の準備をしていた。境内の片隅に小さなテントが1つ張られ、その中にだるまが並べられていた。「このだるまはここで作っているのですか」店番のおじいさんに尋ねると「いや、これはこの寺の住職がどこかで仕入れてきて、売っているんだ」と味気ない返事が返って来た。この寺の奥の院には高さ16.5mという日本最大のだるま像が立っている。日本最大のだるま像のある寺での小さなだるま市だった。本堂では法要が行なわれ、たくさんの人たちが手を合わせていた。

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 洞雲寺の向かいの山に神岡城が見える。次はそこへ行ってみることにした。階段を下り、舗装された道を上って行った丘の上に神岡城はあった。城への入口には冬季間閉鎖と立て札があり、深く積もった雪が道を遮断していた。「戦国時代に武田氏の飛騨・越中攻撃の拠点として、その後は金森氏の出城として使われていた。現在の城は昭和45年に復元されたもの」と説明がある。こぢんまりとした小さな城だった。お城に併設されている神岡町郷土館も冬季は閉所され見学することができなかった。
 
 神岡城から再び坂を下り、役場や公民館のある所へ出た。神岡の町をぐるりと周り終えたようだ。役場で神岡の紹介をしたパンフレットを貰おうと考えたのだが、土曜日で役所は閉まっていた。時刻はまだ4時半。お祭り開始まで2時間近くある。商店街で喫茶店を見つけてしばらく休憩した。
 
 午後5時過ぎ、辺りは薄暗くなって来た。大通りに建てられたテントでは係の人がテーブルや椅子の準備を始めていた。まだ少し時間があるので、食事をしながら待つことにした。飲み屋の灯りが見えればすぐ飛び込むのだが、こんな時に限ってそういう場所はなかなか見つからない。通りをキョロキョロしながら歩き、商工会議所の角を曲がった所で、お好み焼きの灯りが点いている店を見つけた。ガラス戸を開けて中に入る。テーブルが幾つも並び、結構広い店である。カウンター席に座って熱燗を注文した。

 店に客はいないのだが、お上さんは忙しそうに調理をしている。「できましたよ」とお上さんが、奥に声を掛ける、座敷の戸が開いて、もう1人おかみさんが現れた。奥の部屋で食事をしている客がいるようだ。店は結構繁盛しているようだ。

 付きだしの漬け物を肴に熱燗を飲み始めた。なかなか口当りのいい酒だ。「これ神岡の地酒ですよ。味はどうですか」お上さんが話し掛けて来た。「香りがいいですね」と相槌を打つ。「ここは例年この位雪が降るのですか」「いや、何時もなら2mは越えるのだけど、今年は少し雪が少ないね」とお上さんから驚くような話が返って来た。外の雪は1mを越えているのだ。

 奥の部屋から親父さんが出て来た。手にローソクを持っている。入口の戸を開けて外へ出て行った。「何をやっているのですか」「今晩はキャンドルフェスティバルだから、店の前にある雪の柱の上にローソクを立てるのですよ」とお上さんは教えてくれた。通りを歩いている時に雪の柱をたくさん見かけたが、その上にローソクを立てるとは気がつかなかった。もうすぐローソクの明かりが並ぶ景色が見られそうである。

 店の中は次第にお客さんで込んで来た。女子中学生のグループがもんじゃ焼きを注文している。もんじゃ焼きが自慢の店のようだ。奥の部屋から青年が現れた。私とお上さんとの話が盛り上がっている中に、その青年も加わり、さらに話は盛り上がっていった。青年はこの店の長男さん。今は富山の保険会社で働いているという。今日は富山から里帰りし、雪祭りを見に来たのだという。「いい写真が撮れるといいですね」青年の優しい声に送られて外へ出た。

 外は粉雪が舞い始めていた。すっかり暗くなった通りの向こうから、たくさんの電球に飾られた山車が近づいてくる。車に乗せられている山車もあれば人が担いでいる山車もある。いよいよパレードの始まりである。

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 手に提灯を持ち、威厳のある黒い半被を着た老人たちが先達を務めていた。その後を、電球で飾った山車が続く。通りにはたくさんの人が出て賑わって来た。しばらくパレードと一緒に歩いて行くことにした。山車を担いでいる人も車の山車に乗っている人も祭りを心から楽しんでいるようだった。見ている人よりも神輿の行列に参加している人の方が多いように感じた。町全体が祭りに参加しているから、見る人が少なくなってしまったのだろうか。「今年でこの山車行列も終りになる」町の人たちの話が聞こえて来た。最近の経済情勢がそうさせるのだろうが、町の人たちはパレードがなくなってしまうことを残念がっていた。淋しい話である。

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 通りにある広場に並べられた雪柱にはローソクが灯され、子どもたちが手をかざして暖をとっていた。町の角々に貼ってあるポスターにそっくりの風景だった。広場に降り続く粉雪に、ローソクの灯りが反射して、粉雪が輝いていた。

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 時刻は7時半。祭りは最高潮を迎えようとしていたが、最終列車の時刻が近づいたので、駅に戻ることにした。通りから離れ、真っ暗な道を駅まで急いだ。駅はひっそりとしていて、だれもいない。列車を使ってこの町へ祭りを見に来た人は私以外にはいなかったようだ。

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 2階の待合室に明かりが点いている。列車の来る時刻に少し時間があるので待合室で過ごすことにした。待合室には本棚あり、本が並べられていた。図書館になっているようだ。単行本や雑誌が並んでいる。その中に金子みすずの詩集を見つけた。私が好きな作家だ。「みすずさんへの手紙」というその本の最後のページに、「レール文庫へ寄せて」という手紙が挟み込まれていた。この駅の図書館が「レール文庫」という名前であることを知った。手紙は「鉱山のある町へ行った女の子」という題で、ある人がこの町に住む人に宛てて書いたものだった。じっくり読んでみたい。列車の時刻が迫り、私はこの本を借りることにした。

 粉雪が激しく降り続く中を、がら空きの列車はゆっくり進んで行く。私は駅で借りた詩集に挟み込まれた手紙を読みながら、今日出会った人たちのことを思い出していた。「…楽しい思い出をありがとう…」手紙にある文章と同じような気持ちになっていた。 この本は、神岡駅へ返しに行こうと思っている、私の旅日記を添えて…・・。





 
[ 2013/01/09 08:26 ] ふらり きままに | TB(0) | CM(0)
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プロフィール

細入村の気ままな旅人

Author:細入村の気ままな旅人
富山市(旧細入村)在住。
全国あちこち旅をしながら、水彩画を描いている。
旅人の水彩画は、楡原郵便局・天湖森・猪谷駅前の森下友蜂堂・名古屋市南区「笠寺観音商店街」に常設展示している。
2008年から2012年まで、とやまシティFM「ふらり気ままに」で、旅人の旅日記を紹介した。

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