2月12日(木) 富山~直江津 未だに自動車の運転が上手くない旅人にとって、富山から高速道路を飛ばして九州まで走ることは至難の業である。そこで選んだのが、直江津と博多を結んでいる九越フェリーだ。直江津港からは、毎週火、木、土に便が出ている。昨夜、フェリー会社に電話をしたら、「空いています」と快い返事を貰っていた。

雪がちらつく昼過ぎ、「交通事故には気を付けてね」と心配そうに手を振るおばあさんに見送られて出発した。


旅に出る時のいつもの風景である。このところの暖かさで雪はかなり少なくなったが、それでも道の両側は、除雪された雪が壁を作っていた。黒部から親不知の険しいトンネルを抜け、新潟県に入った。新潟県もずっと雪の壁が続いていた。本当に今年は雪が多いのだ。

夕方、直江津港へ到着した。冷たい風が吹き、埠頭に人影は見えない。気候のいい時期には、この埠頭は釣人の姿がたくさん見られる所なのだ。フェリーの出港は午後一〇時。それまでここで待つことになる。しばらくすると、沖合いから大きな白い船が近づいて来た。フェリーだった。旅人が博多まで乗船する船のようだ。出港までまだ5時間近くあるというのに、早い到着だった。

さっそく乗船手続きに行った。「九越フェリーは、博多と室蘭を結んでいます。直江津は中継港です」と受付の男性が説明してくれた。帰りの乗船券も併せて手続きを取った。往復で64,490円だった。往復なので割安にはなっていたが、やはり運賃は高い。だれでも気楽に船旅という訳にはいかないのだ。受付名簿を見ると、直江津から乗船する客は僅かに6人だった。フェリー会社も深刻な経営状態のように旅人には思えた。今すぐ乗船できるのかと思ったら、「9時過ぎまで待ってください」と言われた。仕方なく車へ戻った。
車の中で、夕食を済ませ、乗船時刻を待った。今回の旅もこの小さな車の中で宿泊することが多くなりそうだ。簡易のガスボンベや調理道具、調味料、インスタント食品などはもちろん積み込んだ。そして前回の旅で得た教訓から、小さな電源装置を購入した。この電源装置のプラグを、車の中にあるタバコのヒーターボックスに差し込むだけで、電気製品が使えるようになるのだ。それをつなげば、テレビだって見られるし、蛍光灯も点けることができる。車が近代的な家に変身するのである。これまでテレビを積んで旅をしている車に何度も出会っていたのに、「発電機を積んでいる」と旅人は思っていた。そんなに簡単な道具が仕掛け人だったとは、全く知らなかったのだ。運転暦の浅い旅人らしい話である。さっそく近くのホームセンターへ買いに行った。値段は2千円ほどだった。旅人が積み込んだ電気製品はパソコンだった。車の中で旅日記をどんどん書こうというのである。
乗船時刻にはまだ2時間近くある。パソコンを稼動させてみることにした。エンジンをかけ、電源装置のスイッチを入れるとパソコンが使えるようになった。今回は、早々と旅日記が完成するのかも知れない。
午後9時過ぎフェリーに乗船した。2等寝台のベッドへ案内された。大きな部屋には六つのベッドが並んでいたが、お客は旅人1人だけだった。さっそく、風呂へ行った。広い風呂には、誰もいなかった。帰りに食堂の自動販売機でビールと焼きソバを買い、部屋へ戻ったが、乗務員以外に出会った人は、いなかった。大きな船に数人のお客を乗せて走るフェリーの中は、閑古鳥が鳴いているという感じだった。
午後10時、フェリーは直江津港を静かに出港した。窓の外には真っ暗な日本海が広がっていた。海は凪いでいた。