2月13日(金) 直江津~博多
午前6時起床。穏やかな船旅が続いていた。冬の日本海もこういう静かな時があるのだ。おかげで昨夜は、ぐっすり眠れた。洗面を終え、食堂へ行く。食堂の営業開始は8時からだった。乗客が少なくても営業はきちんとやるようだ。朝食はここで食べることにして、部屋へ戻った。
この船が博多に着くのは今夜の6時半。たっぷり時間がある。旅人は、持ってきた本を読むことにした。今、話題を読んでいる「半落ち」である。上さんが買ったものだが、内容が面白いらしい。映画化され、今上映されているそうだ。さっそく読み始めた。
1人の警察官が妻を殺して出頭する場面から物語が始まった。取調べが始まったのだが、第一章は、その取調べを担当する警察官が登場した。妻殺しの被疑者には2日間の空白期間がある。しかし、その2日間のことについて被疑者は黙秘している。物語はその2日間の空白を巡って展開していくようだ。ぞくぞくしながら読んで行ける作品だった。第1章を読み終わったのは、9時だった。
食堂へ行った。1人の男性が窓に近いテーブルで食事をしていた。この船で、初めて会った乗客だった。干物、味噌汁、納豆などが付いた和定食を食べた。まあまあの味だった。
再び「半落ち」を読み始めた。
第2章は検事が登場した。正義感溢れる検事が、空白の2日間について被疑者を取り調べて行く。その中で、警察が自白調書を捏造したことが明るみなり、そこを検事は鋭く追及して行った。しかし、被疑者は依然として、空白の2日間について真実をあきらかにしない。ぐんぐん物語りに吸い込まれて行くのが分かる。
第3章は、新聞記者が登場した。警察が自白調書を捏造した事件を鋭く追求する記者が描かれていた。警察や検察庁のどろどろした内部が明るみに出されていく。
第4章は、被疑者を弁護する弁護士が登場した。うだつの上がらない弁護士がこの事件をきっかけに一旗挙げようというのだ。しかし、空白の2日間は、依然はっきりしないままこの章は終わった。
この物語の結論は、最後の章に隠されているのだろう。もちろんその章は、最後の楽しみに取っておくつもりだ。実は、後で分かったのだが、うちの上さんは、この「半落ち」の結論を先に読んでしまったそうだ。ミステリー小説は、結論を知ってしまえば面白さが激減してしまうと旅人は思っているのだが、不思議な人がいるのだ。
時刻は一二時を過ぎていた。腹が減ったということではないが、昼ご飯の時間なので、食堂へ行った。結構人がいて、食事をしていた。家族連れの姿もある。北海道から乗船していた人たちもこの中にいるのかも知れないと思った。カレーライスを注文した。ボリュームのあるカレーだった。
再び、「半落ち」を読み始めた。
第5章は、被疑者を審判する裁判官が登場した。この裁判官には、身内にアルツハイマー病で苦しんでいる人がいた。アルツハイマー病で苦しんでいる妻を殺した被疑者に対して、どんな判決を下すのか。判事が判決を下すまでの苦悩が、この章では書かれていた。空白の2日間については、判決が出た後も、明らかにならなかった。
第6章。いよいよ終章である。何と刑務所の看守が登場したのだ。すごい発想である。物語は、一気にクライマックスへと進んで行った。そして、なぜ被疑者が二日間の空白を自白しなかったのかということが明らかにされた。それは、人のためであった。人のために生きるということが作品の大きなテーマになっていた。「半落ち」は泣ける作品だった。映画も見たいと思った。九州を放浪した後、再び、博多からフェリーに乗るのだが、その最終日に博多の映画館に行こうと旅人は思った。
フェリーの一日は、満ち足りた気分で過ぎて行った。