2月13日(金) 博多(福岡)~福吉(福岡)
午後6時半、フェリーは定刻通り博多港へ入港した。空は曇っているが、まだ辺りは明るい。富山では6時半になればすっかり暗くなっていたのに、日本列島の西の端にある博多は、日没の時刻がかなり遅いようだ。
博多港に降り立った旅人は、これからどうするのか、まったく予定を立てていなかった。「博多に着いてから、それは考えればいい」と決めていたのだ。全く気ままな旅人である。「今夜は、このフェリー埠頭で野宿するか」とも考えたが、「どこか適当な所で野宿すればいいのだから」と、とにかく車を走らせることにした。
海岸沿いの国道3号線を西に向かって走り出した。しばらくして「唐津」という道路標識が目に入った。「唐津」は以前から行ってみたいと思っていた所だ。最初の目的地は「唐津」と決めた。気楽なものである。
だんだん辺りは暗くなり、国道202号線に入って、道は狭くなった。通勤帰りの車で渋滞もひどくなり、思うように進めない。時刻は7時半を過ぎている。運転暦の浅い旅人は、夜道を走ることも大の苦手なのだ。「唐津」入りは明日にして、寝場所を見つけることにした。
そう決まったら、まずは、夕食の買出しである。大きなスーパーを見つけて、弁当とビールを購入して再び出発した。しばらく走っていたら、道の横をJRの列車が走っているのに気がついた。唐津へ通じる筑前線である。駅を見つければ駐車場があるかも知れないと思った。
やがて、駅が見えてきた。結構立派な駅である。「福吉駅」と表示がある。まだ、福岡県にいるような名前だった。予想通り駅前には駐車スペースがあった。今晩は、ここで野宿することにした。
時刻は午後8時半を過ぎていた。寝場所を見つけるのに大分苦労した。さっそく遅い夕食を車の中で食べ始めた。しばらくすると、ホームからアナウンスの声が聞こえて来た。やがて、こうこうと光る列車が停車した。唐津へ向かう列車のようだ。車内にはたくさんの人影が見える。大都会を走る列車だから、この時間になっても通勤客で混んでいるのだ。その列車を、駅前の駐車場からから見ている人間がいる。その人間は、今晩ここで野宿するというのだから、本当に信じられない話なのだ。改札口から人が出て来た。高校生の姿が多かった。予備校の帰りなのだろうか。
時刻は午後9時半、酔いも回り、眠気が襲って来た。寝る準備を始める。座席を倒し、寝袋を取り出し、その中に潜り込んだ。時々、駅のアナウンスの声が聞こえて来る。まだ、列車は引切り無しに走っているようだ。
大きな音で目が覚めた。「何事が起こったのか?」あわてて、寝袋から顔を出すと、直ぐ横に黄色い光を点滅させたトラックが停車していた。その横で数人の作業員が、道路標識やコンクリートブロックやカラーコーンなどを運んでいた。道路工事が始まるようだった。「ここにいてもいいのだろうか」不安な気持ちが過ぎる。時計を見ると午後10時を少し過ぎていた。
とにかくしばらく様子を見ることにした。作業員たちは、忙しそうに運んだものを道路に設置している。道路を一方通行にして、作業を始めるようだが、工事現場はここから遠く離れた所のようだ。15分ほどで道路遮断の作業は終わり、1人の作業員を残して車は去って行った。残された作業員は、車に合図を送る交通誘導員だった。深夜、道路工事で働く人を尻目に、旅人は再び寝袋の中に潜り込み、深い眠りに落ちて行った。