2015年11月24日 22:15 北日本新聞web
■神通峡の民話まとめる富山市楡原(細入)の佐田保さん(67)が、昨年見つかった食道がんを乗り越え、同市細入、大沢野地域に伝わる民話114編に挿絵を添えた本を自主製作した。抗がん剤の副作用に苦しみながらも入院中から編集を続け、手作業で製本した。 (大沢野・大山支局長 池亀慶輔)
佐田さんは名古屋市出身。同市で小学校教員として働き、旅好きが高じて52歳で退職した。妻の陽子さん(66)の実家がある旧細入村楡原に移り住み、デザイン会社を営む傍ら全国各地を旅して水彩画を描いた。
細入村史にある伝説に魅了され、多くの人に知ってもらおうと、伝承を掲載した小冊子をJR猪谷駅や富山市猪谷関所館で無料配布。絵本も手作りした。
昨年11月、急に食べ物が飲み込めなくなった。医師にがんを指摘され「生存率は3分の1」と言われた。市内の公的病院に入院し、抗がん剤と放射線による治療を受けた。
ことし3月までの入院で体重は20キロ近く減った。気だるさや微熱に悩まされる日々。しかし、「まだ紹介できていない民話がある」と決心し、これまでの集大成として本を作ることにした。
病室へのパソコンの持ち込みは禁止。知人から借りた資料を基にスマートフォンで原稿を入力した。資料はいずれも地元の有志によるもので傷みが激しく「このままでは埋もれてしまう」と危ぶんだ。スケッチブックも持ち込み、民話の情景を鉛筆や筆ペンで描きためた。
今回作った本のタイトルは「昔話集 神通峡かいわい」。引用元を明記した上で、これまで小冊子や絵本にしていなかった約50編を新たに加えた。てんぐやカッパが登場する不思議なストーリー、地名の由来などを収録している。A5判232ページ。ことし9月に完成し、10月に地元の小中学校や図書館に贈った。
佐田さんは「神通峡の民話を残したい一心だった。子どもたちに知ってもらいたい」と話す。本に関する問い合わせは佐田さん、電話076(485)9103。